なにもしらない画廊 ③全裸のマリリン100万体【作者・スズキシン一】
なにもしらない画廊こんにちは。ホタルイカを酢味噌で食べない人と気が合う、しらん氏です。
今日紹介するのは「マリリン・モンローに恋をした」という表現では全く言葉が足りない、モンローを生き、彼女を世界とし、宇宙としたスズキシン一(すずきしんいち)さんの作品をご紹介。
何が描かれているかわかりますか??いろんなグラスに詰め込まれた全裸で妖艶なマリリン・モンロー。画廊になった初日に、この作品を発見して度肝ぬかれました。度肝をぬかれたのは、モンローの大胆な全裸ではなく、この数。よーく見てください。無数のマリリンが中央に向かってどんどん小さくなっていくんです。(拡大してみてみてください)
もう一枚、瓶にぎゅうぎゅうに詰められたマリリンもみつけました。
見つけたとき、「うわ~~~~~~~~~ああ~~~ああ~~」って言った記憶があります。そして、近くにいる仕事仲間に「ちょっとーこれ、私すきやーーーーー」と伝えたような。見れば見るほどぐんぐん引き込まれ、なぜだかわからないけど好きが募っていきます。
なにもしらない画廊のしらん氏なので、作品のことも彼のこともなにもしりません。教えてくれるのは、Google先生。Google検索で「スズキシンイチ」と調べてもなかなか情報がでてこない。(この段階では、「シンイチ」と検索していて、正しい表記が「シン一」だとまだ知らなかった)検索して唯一ヒットした銀座の「青木画廊」という老舗の画廊を見つけ、そこでまた衝撃の事実を知る。
「100万体のマリリン・モンローを1枚の巨大な和紙にマンダラとして描くことに挑戦しており、97万8000体の完成寸前で亡くなられた。」
ー「マリリン97万8千体・スズキシン一氏の画業について」青木画廊HP 文・青木外司ーより引用
す ご す ぎ や し な い か。
気になって仕方がないので青木画廊さんに連絡してみると、とても優しく受け答えしてくださり、お手持ちのスズキシン一さんのDMや展示会の資料を送ってくださいました。
や さ し く て 感 動 。
画廊って神戸にはあまりないし、敷居が高そうだし、自分には関係ない場所なんだろうなと思っていましたが、「東京出張があれば遊びに来てください」の青木さんの優しいお一言に甘えてすぐさま銀座の画廊にお邪魔してきました!
目的は2つ!
・生前のスズキシン一さんについてご存知の青木さんに、スズキさんの話をお伺いする
・画廊っていったいどんなところかを体験してみたい
突然ですが着きました。銀座です。
銀座駅から3分もかからない程度の場所に青木画廊はありました。中央にある、薄ピンクのビルです。

「東京・銀座中央通の1本有楽町側の通り、赤い看板を目印に薄暗い階段を昇ると、外の喧噪とはうってかわり幻想絵画の世界が広がる。現代美術とは一線を画し、世情の評価に左右されない孤高の画廊ー1961年開廊以降、<幻想絵画><シュルレアリスム>の巣窟に、日本中から巡礼のごとくファンが訪れる。」
ー「一角獣の変身 青木画廊クロニクル1961-2016 青木画廊編」より引用ー
これがその聖地へと続く階段。薄暗く、ひんやりとしていました。例えるなら、台湾出身のお母さんが1人で切り盛りする神戸の台湾料理屋さん蓬莱亭へ昇る階段のような。


「は~い」
とても綺麗な女性が出てこられ、画廊に案内してもらう。
もう一度画廊に戻って座って待っていると、さっきの綺麗な女性にぴったりな、痩せ型ですらっとした、たっぷりと髭を蓄えた格好いい男性が入ってこられた。スズキさんの記事を書いた、青木外司さんの息子さん青木径さんだ。
自己紹介をして、「早速スズキさんのお話をお伺いしていいですか」とお声がけすると「そうそう、ちょっとまってね」と、青木さんは上の階の倉庫へ。戻ってこられたお手元にはたくさんのDMと数々の資料。
その中に、1991年に本間美術館で開催された「スズキシン一の世界 マリリン・ラブソング展」で制作された「スズキシン一の世界」という冊子が。スズキさんについての情報を求めていたしらん氏は、スズキさんのことが執筆されている本を見て、感激。
青木さん「それ、全部どうぞ」
しらん氏「!!!!!!!!(うれしい)」
こんな貴重なものをいただいていいのですか!?と言っている割には、遠慮がちな態度はとれずとても嬉しい表情をしていたと思う。 今回販売するスズキさんの作品は、ほぼ黒1色で(ビン詰めのマリリンは赤、青が若干入っています)描かれていますが、冊子で紹介されているカラフルな絵画をご紹介したいと思います。(この冊子もらえて、本当にうれしい!)
「スズキシン一の世界」作品図版表紙
ビルの窓から覗いているのは、みーんなマリリンです!「スズキシン一の世界」 昼食(サンド・ウィッチ)1965
複数のマリリンが食パンに挟まれています。もしかして、さっきのビルの絵も、マリリン巨大な食パンに挟まれている?
「スズキシン一の世界」 10万体のマリリン・マンダラ 1980-1982
「スズキシン一の世界」 マリリン・マンダラ 1990-1991
「スズキシン一の世界」 春(四季シリーズ) 1990
ひたすらマリリン、マリリン、マリリンです。
どうしてこんなにマリリンばっかり描いていたのか、どんな人だったのかも青木さんに尋ねてみました。(スズキシン一さんの「マリリン・マンダラ」に収められている挿絵と共に紹介します)
青木さん
「やっぱモンローって好きな人結構多くてね。毎年、ノーマジーンってね、あの~、喫茶店があるんだけれども、喫茶店ていうか夜はバーみたいになるんだけども。そこが、ノーマジーンていうのが、モンローの本名なんだよ。それで、そこが、一種のモンローファンの聖地みたいになってて。」
しらん氏
「へえ~。」
青木さん
「それで、年に一度、モンローの命日にみんなそこに集まるんだよ。」
しらん氏
「へえ~!」
青木さん
「目黒にあるんだけれども。それで、もう、いろいろ著名人がいて。スズキさんなんかも、モンローの仲間、中心人物。もう僕なんかいっても、専門的すぎちゃって、もうなんかまあどうでもいいんだけど、なんか(笑)すごいよね、モンローグッズを集めるこだわりとかさ。それからそこ行くと四六時中、常にビデオが流れてて。いろんなポスターとか、いろんなものダーっと飾ってあって。それは、ちょっと面白いっちゃ面白いところ(笑)」
マリリンの魅力に魅了されてしまった人はとことんいってしまう人が多いようで、日本大学の名誉教授がマリリンモンロー名誉会長をしていたり、上から下までモンローなカバンから着てるもんから靴から全部マリリンな青年がいるとか。スズキさんもマリリンのグッズとか持ってたか気になって聞くと、
青木さん
「彼はそういうことよりも自分で描く人だったから。」
なるほど、そういうことか。描くことでマリリン欲を満たすということか?語源の乏しいしらん氏なりに「マリリン欲」と表現したけれど、このスズキさんのマリリンを描く姿勢はいろんな言い方で表現されています。
・彼はモンローを生き、彼女を世界とし、宇宙とした
・女優としてのマリリンではなく、マリリンとスズキシン一の ” 関係史 ”
・セックスシンボルとしてのマリリンは初めからあり得ず、おのれの自我の統一性を初めから問い直している
・美術を超えて宗教に近い
「スズキシン一の世界」より在りし日のスズキさん(Tシャツに注目)
マリリンを題材として描く画家は多数いるが、マリリンしか描かない画家はスズキさんだけ。それも100万体を描ききろうとしたなんて。青木さんから聞いた、スズキさんがどんな人だったかわかるエピソードを紹介します。
・山梨の車がないとたどり着けないところに、大きな家をタダ同然で借りて、そこで100万体を描いていた
・描いている姿を見たことがある青木さん「ちょっと口では説明できないよね」
・「お酒は飲まれちゃだめですよ」って言って、自分が先に酔いつぶれてしまう
・お酒飲んで酔っ払ってでもマリリンを描く
・自分の信念みたいなものはめっちゃくちゃ強いもの持ってた人
・絵を売るっていうより、あげてしまう
お話中に青木さんは、何度も倉庫へスズキさんの作品を取りに行って見せてくださいました。
竹細工のうちわに、筆で描かれたマリリン。
このうちわには、マリリンが愛用した香水シャネルの5番がセットになっていました。遊び心があって素敵です。うちわにマリリンの香りを振りかけて、顔の前で扇いでめいっぱい吸い込んで、からだの中からマリリンの香りでいっぱいにするのかなー。中身はからっぽでずいぶん前に作られた作品ですが、まだ香りがしました。スズキさんもこの香り嗅いでたんだなあ。
こんなカラフルな実物を見たのは、初めてで興奮しました。感動したのは、マリリンの指先の繊細な表現。ほっそーいほっそーい筆の先で小さな手を流れるように描いています。ふくらはぎから脚のラインも迷いがない筆先を感じることができて、スズキさんの手先にマリリンのからだのパーツが精密な機械のようにインプットされてるような印象を受けました。でも、機械よりもっと感情的な人間に近い機械。なんと表現すればいいのだろう。
真っ暗闇ふんわり浮かぶ小さなマリリン。
近くに寄ってみました。この小ささなのに、ふさっと伸びた睫毛がいろっぽく表現されています。
「★マリリン・マンダラ★スズキ・シン一」キャラバン文庫 1982年
インターネットで調べて、気になっていたけど入手ルートがなくてあきらめていたこの本も見せてくださり、「もってないの?あげるよ」とまたまたいただいてしまいました。ものすごくうれしい。画廊は、作家の作品を管理して販売しているところだとは知っていたけれど、十数年前の展示会の作品をきちんとした箱に収めていて、ふと興味を持ったしらん氏に十数年を経て見せてくれる、時空を超えて作品を体験させてくれる場所でした。衝動的に好きになったしらん氏の興味を紐解いてくれ、さらに深くて、広い所まで一緒に連れて行ってくれる、そんな体験でした。
青木さんからいただいた本の中で、「うん、しらん氏は素人だけど、とってもわかる」という文章があったので、紹介させてください。
「伝記や評伝や映画の中のモンローは好ましい。しかし私を熱狂させはしない。私を熱くさせるのは、スズキ・モンローなのだ。それはスズキさんの熱気や執念の象徴といった単純なものではない。スズキさんが変幻させた女体が私の完成を刺激するのだ。」
ー「スズキシン一の世界」執筆者・庄司肇ーより引用
しらん氏だけど、ものすごくわかるのです。
最後に、商品詳細ページと一緒にスズキさんの著書から作品に対するコメントの一部を引用して紹介します。
Marilyn曼荼羅
消す空間を根っから身につけたMarilynの可憐なしぐさは、いとおしさが抜群だ。消す行為のなかには少なくとも、すざまじい量が謳歌した質のdramaが連綿と流れているに違いない……それをこともなげに消すなんて、ニクイではないか……
曼荼羅は球体の如来を中心核とし何万億の仏洋をローラーに引き伸ばした平面図式化した宇宙観という仮説をたてたら、僕のMarilyn曼荼羅のI-mageは、人間の歴史的変遷の女の原点に向かって逆行する宇宙観かもしれない。
「★マリリン・マンダラ★スズキ・シン一」キャラバン文庫 1982年 より引用
GlassのなかのMarilyn
グラスのなかのアルコールが夕映えの海の光と影となって黄金色に染まった。水平線がキラキラ揺れながら虹のさざ波を創った。妄想と追憶のなかに沈む人魚、ファーマ、妖精、恋人たちのざわめき、もだえ、歓喜、泣叫がカオスとなり、鮮やかで透明なグラスのなかに照らしだされるそんな瞬間……僕のMarilynにたいする激しいイメージが活火山の爆発となって吹き出るのだ。
「★マリリン・マンダラ★スズキ・シン一」キャラバン文庫 1982年 より引用
毎日の気分を変えるのは、洋服じゃなくてもいいんじゃない?
自分の身の回りをすこーしだけ超えたところから、自分を変身させてくれる、アートの魔法。
そんな体験を「なにもしらない画廊」からみなさまへ。