LOVE PEACE PIECE対談 SEENOWTOKYO内田 × BOSS

LOVE,PEACE,PIECEのプラットフォームとなったhaco!。ともに踏み出してくれたのは、株式会社THEARの代表である内田さん。内田さんは、ドメスティックブランドと呼ばれる国内のデザイナーズファッションブランドの最新アイテムがコレクション発表後すぐに予約購入できるECサイト<SEENOWTOKYO>を手がけられています。haco!となぜ手を組むの?目指す未来とは?代表の内田さんと、haco!スタッフBOSSの対談をお送りいたします。




――本日はよろしくお願いいたします。まずは、内田さんが普段取り組まれているお仕事についてご紹介ください。
2017年からSEENOWTOKYOというファッションECサイト(通販サイト)を運営しています。扱っているのは国内を中心にしたデザイナーズブランドで、通常の通販サイトと異なるのは、ブランドがコレクションを発表したのとほぼ同時に、一般のお客さまも予約で申し込みができるという点です。
どういうことかというと、例えば、東京コレクションに登場するようなブランドのお洋服は、新しいものが発表されてからすぐは、お店の人や一部の業界関係者しか買えないことが多いんですね。SNSなどで写真は見られても、どこでいつ買えるのかは、僕たちみたいないわゆる一般のお客さまには届きにくい。さらには、写真だけが先に出回ることで、他のブランドに同じようなものを真似て作られて、デザインを生み出したデザイナーの想いが置き去りにされている・・・という業界の構造もあったりするんです。そんな構造を変えたくて、今のサイトを立ち上げ、運営しています。

株式会社THEAR 代表取締役社長
内田 裕也
2017年株式会社THEAR(ゼアー)設立。ドメスティックデザイナーズブランドの新作をショーからどこよりも早く公式に購入できる国内唯一のECサイト「SEENOWTOKYO(シーナウトウキョウ)」運営。東京コレクションを生中継しWEBで購入できるイベントや、東京の今を代表するブランドのポップアップイベント等を開催。「ファッションに関わる人々全ての声をアンプに繋ぐように、デジタルの力で最大限に拡大したい」をモットーに、ブランドのデジタル対応を包括的にサポートし、国内ファッションの活性化を目指す。
website
https://seenowtokyo.com/
ファッション業界において、革新的な取り組みですよね。初めて知った時は驚きました!現在のお仕事を始めようと思われたきっかけはなんだったんですか?
もともと母親が岡山県のファッション専門学校の教員をしていて。幼い頃から学生の卒業制作やファッションショーの手伝いをしているところ見ていたので、ファッションの世界とかお洋服をクリエイションすることって面白いなって思っていたんです。ただ、自分でデザインしているのはイメージがつかなくて。ビジネスの仕組みから支えるようなことができれば、と高校生ぐらいの時から思っていました。
社会人になってファッションとは別のことに携わっていたんですけど、あるとき、ニューヨークで今のSEENOWTOKYOに似たサービスモデルをみて、自分がやってみたいのはこれだ!と思って会社を立ち上げたのが始まりですね。
そうだったんですね!もともとファッションに興味があったとはいえ、社会人になってゼロからスタートするというのは大変だったんじゃないですか?
そうですね。ファッションの流れは構造的には理解できていたんですが、業界としてはほとんどゼロからなので、すごく大変でした。だから、最初は参加して欲しいブランドさんにお手紙を書くことから始まりましたね。会社は作ったけど、サイトはまだない状態の時に声をかけさせていただいたブランドさんもあります。(笑)
いきなり「内田と言います!こんな仕組みを考えたんですけど参加してくれませんか!」って??(笑)すごい根性!ブランドさんの反応はどうでしたか?
はじめは、普段進めているビジネスで忙しいから、別のことも同時に行うのは難しい、と言われることの方が多かったですね。でもあきらめずに、なにが実現できない課題なのかをひとつずつ解決していきました。結果、はじめは10ほどだった参加ブランド数も、今では140ブランドほどになり、お客さまへ様々なファッションの可能性をご紹介することができています。



140ものブランドが集まるのはすごいことですよね。きっと、販売場所としての役割や内田さんの人間性だけではなく、一緒に目指したいビジョンに共感を得たからではないかと思うのですが、いかがでしょうか?
一番は、ブランドさんが在庫を持つことの苦労をとっぱらいたいという部分に共感してもらえているんじゃないかなと思います。
お洋服を作って売るためには、たくさん在庫を持っておくというのが当然の流れとしてあります。ただ、そのためにはまず生産してくれる工場さんにお金を払って作っておかないといけません。買ってくれるお店がもともとたくさんあれば、不安もないですが、個人でやっていたり、スタートしたばかりのブランドさんはそうもいかないんですよね。素敵なデザインを思いついても生産できなければ、お客さんとの出会いも生まれないですし。
たしかにそうだよね。どこかでリスクが発生するのはビジネスとしてあることだけれど、始めたばかりのブランドさんにとっては、それこそ清水の舞台、みたいな話。具体的にはそれをどう解決しているんですか?
受注会でお客さまにはいただいた予約金の一部はそのままブランドさんに渡していて。それをもとに、生産をしたり、次のアイテムづくりにつなげたり、とデザイナーさんが作り続けられサイクルが生まれるようにしています。
なるほど。それならお客さんは欲しいものが必ず手に入るし、ブランド側も安心して生み出せる。早い安いが求められることが多い時代だけれど、本来ものづくりってそうだったし、そこから新しいものが生まれたりしていくものですもんね。
デザインにおいてもそうで、シンプルな方が当然たくさん作りやすいし、効率的で、在庫として持ちやすい。でもそれだけだと新しいデザインやクリエイションって生まれにくくなります。大量生産、大量消費、大量廃棄を生み出してしまう一因だとも思うんです。すべてが解決できるわけではないけれど、今のビジネスモデルではそうならないアプローチができるといいなと思っています。
仕組みからファッションが生み出されるところを支えられているんですね。
ビジネスの構造としては、作る人だけじゃなくて、買ってくれるお客さまもいてくれないといけないじゃないですか。ブランドを知って、好きになってもらうこと。こんなブランドがあって素敵なんだよと広く伝えるためにはどうしたんですか?
百貨店さんなどで僕らが監修してポップアップショップをするとか、あとはブランドさんの魅力を伝えるフリーファッションマガジンを作ったりしています。伝えたいことをストレートに見せていくために、ほとんど自分たちで編集して進めていて、次で3冊目を発行予定です。

なんでもまず自分でやってみるんですね!僕、最初内田さんのやられていることを聞いたとき、デジタルで展示会ができるアプリとか、そういうツールづくりの会社と思ってたんだよね。でも全然違っていた。思いついた技術どうですか!でもなく、ザ・ファッション業界!ってわけでもなく。関わる人がよりよくなれることを仕組みから支える、というか。ご家族の影響を受けて、今につながっている。
そうですね。「器(仕組み)を用意してみたんですけど」と出してみたときに、「それってすごい未来あるね!」と思ってくれてもいいし、「課題だと思っていたことにマッチしそうだ!」と思ってくれてもいい。それで喜んでくれる人がいたらいいなと。
――たくさんのブランドを束ねるサイトを運営するというのは、色々と超えないといけない壁や苦労もあったと思うんですが、それでもやってやるぞ!と思いつづけられているモチベーションはどこにあると思いますか?
家族のことも見てきた上で、ずっと取り組みたいと思っていたことなので、まず僕自身としてとても思い入れがあること。そして一番は、期待をかけて参加してくださっているブランドさんの良さをもっと伝えていきたいと思っていることですね。ファッションや新しいものとの出会いが生まれていくのを感じられるのは、とてもやりがいがあります。
内田さんの会社の理念に「ファッション界における、アンプのような存在でありたい」という言葉があるけれど、それはそういう想いからですか。
そうですね。インターネットというデジタル上に、洋服というアナログなものを乗せようとすると、どうしてもそれがどういうものであるかの情報の方が先行してして、ブランドやデザイナーの声が小さくなってしまいがちなんですが、そういう想い、みたいなことを僕らを通してもっと広げていきたい、繋げていきたいと思っています。


――内田さんも葛西さんもファッションを伝えていく立場として、これから向かっていく課題としてはどんなことがあると思われますか?

まずは、価値がうまれていく環境づくりですね。うちで取り扱っているブランドさんの中には、結構派手なものもあるんです。でも、僕はそういうものが生まれるのはファッションにおける価値の源泉だと思っていて。デザイナーさんにも作りつづけていてほしい。でも、現状日本ではそういうものを作り続けられなくなったりするブランドもたくさんあります。
たしかに、作りたいものを思い描いても泣く泣くブランドをやめたりしてしまうところもありますよね。せっかく発表しても、ビジネスとしてつづいていかない。
ファッション業界全体としても価値が生まれる領域が活性化していかなければ、同じものばかりで新しいものは生まれにくいようなことになって、全体が下降してしまうという側面もあると思うんですよ。
そうですね。そこに必要なのは、ゼロをイチにする人達がちゃんと儲けられるビジネスのやり方。コレクションを発表してからネットに出回るのが早くなったことで、自由に他人にコピーされ、栄養だけを吸い取って大きくなっていくことだってある。
生み出した人にリスペクトがあって、デザインが生まれてきた成果がちゃんとでるような。クリエイターやデザイナーさんたちに還元があって、ものづくりを続けられるようにしたいですね。
ファッションのデザイナーやパタンナーを目指して専門学校を卒業して、ブランドを持つ、なんて人は本当にひと握りの厳しい世界。厳しいのはいつだってそうだけれど、それがより続けにくくなっている現状なのは変えていきたいよね。
ゼロをイチにできなければイチを100にはできない。だから、イチを生み出すところにもっと栄養を与えられる、後押しになるような仕組みや企画を一緒に作っていきたいですね。
――着てくれる人、買ってくださる人にも、ファッションがもたらす気持ちの高まりを感じてもらいたいですよね。それにはどんなことが必要と思われますか?
こんな風に着るとこんな風に楽しい、みたいなことをお客さん目線で伝えていくことかなと思っています。僕は個人的に百貨店の2階とかにある、色んなテイストのファッションがずらっと揃う場所がすごい好きなんですよね。色んな楽しみ方があっていい、と思えるような。毎日着る服じゃなくても、こんな楽しみ方もあっていいんだ、と思えるような。
――ブランド、というものにハードルや距離を感じてしまう人もいると思うのですが、コレクションブランドさんのファッションを自分のクローゼットに取り入れる魅力ってどういうところにあると思いますか?

自分なりの特別な日だったり、記念日って、なんだかちょっとワクワクするじゃないですか。そんな感覚を、着るだけで自発的に起こせるのがファッションの魅力だと思うんですよね。それがあるだけで、なんか楽しい気分になったりとか。
――年に数回だったり、大切な時に選ぶのでいいんだよってかんじですか?
全然そういう楽しみ方でいいと思います!長く一緒にいたい相棒のような一着と出会ってもらいたいですね。
――それを聞くと安心します(笑)
例えばさ、ときどきちょっといいものを食べたくなる時、大切な人を連れて行く、とっておきのお店を選ぼうとする時、思いつける一品やお店があるといいよね。楽しくなる。デザイナーの想いなり個性が発揮されているお洋服も、ここぞというときに着る味方のような一着があれば人生楽しくなるよね。
そうですね。ゼロからイチを生み出す人(クリエイター)たちと支え合ったり一緒に楽しんだりするのは、特別な限られた人ではなく、毎日を生きている世界中の普通の人だと思うので。


――LOVE,PEACE,PIECEのプラットフォームになったhaco!では、そのような未来を作っていきたいと思っています。そのためには、なにから始めていくべきなのでしょうか。
まずは、色んなファッションの楽しみ方を伝えられるように、内田さん監修の「これは知っておいて損はない!」と思えるブランドさんを一緒に紹介していくことから始めて、いろんな出会いを育んでいきつつ、使う人の喜びと、作る人の喜びを近づけていくこと。
この前、RBTXCOというブランドさんにオーダーメイドで自分のアイテムをリメイクしてもらえるというhaco!監修の特別企画を行なって。そのときデザイナーさんとhaco!のお客さまが直接お話しする場を作ったんですが、それを互いにとても喜んでくださって。すごく温かい場だったんです。

それはぐっときますね!!
そういうことだよねって、思い始めてきて。
例えば、ファッション専門学校の先生に対して、教え子さんがデザイナーとしてデビューして恩返しのように何か作る、みたいなこともファッションじゃないですか。
そうですね。本来のものづくりってそういう温かさみたいなものがありますもんね。作られたものとそれを手にする人、と線を引くのではなくて。
ものづくりは素晴らしい、尊いので買いましょう!と押し付けるのではなく、毎日着る洋服とかの延長に、想いのこもったものを取り入れられたら豊かだよ、楽しいよって伝えることをしたい。自分が追っかけている大好きなクリエイターやブランドがある、自分も関わりながら作ってもらえる、みたいな関係づくりというか。
それを作っていくために、この取り組みで色んな企画とかお題づくりをしてみたいですね。まだ誰も取り組んでいない景色を作りたい。ゼロからイチを生み出しつづけられる環境づくり、そして実際に身に着ける人たちが楽しめる瞬間を相互に感じられる場づくり、それらが共存できるようなことを。
これまでファッション業界って、どこか遠い世界で流行みたいなものが作られて、最先端みたいな人が偉くって、みたいな印象がどうしてもあったと思うんです。プラダを着た悪魔っていう映画もあったけどね(笑)。でも、今ってもっと作っている人と受け取る人の距離が近くて、思いを伝え合うことができる時代になってきていて。内田さんと一緒に、いろんなデザイナーズブランドさんとhaco!のお客さまの間に出会いを生んでいくことから始めて、そこからあたたかい関係を発展させていけたらいいな、と思います。例えば、お客さまから募集したお悩みというサーブを、デザイナーさんがリターンするような企画とか。お客さまにとって特別な日のために、デザイナーさんが素敵なドレスを作ってくれるとか。そんな、互いが関わり合える場所とか、誰も置いてきぼりにならない協働企画とか作っていきたい。その掛け合わせは、このLOVE, PEACE,PIECEのコンセプトを軸に今回の取り組みで大事な部分にしていきたいですね。
――最後になりましたが、haco!がLOVE,PEACE,PIECEにともに進んでいく未来において「LOVE」「PEACE」「PIECE」の言葉について、内田さんならどう捉えられるかお聞かせください。
■LOVE
同じ時代を一緒に生きて、何かの価値観を一緒に共有できる、その瞬間のことをいうのかなと思います。体験した楽しかったことを、誰かと共有できるところにLOVEが生まれるのかなと思っています。
■PEACE
想像力をもつこと。本来どんな人とでも、共有できること(=LOVE)が一つや二つあると思うんです。例えば、街ですれ違うだけの人のことはなにもわからないけれど、しっかりしゃべったら実はすごく合う人かもしれない。どういう人で、どういうことを考えていているのか。でも全ての人とできることじゃない。だからそれを補うのが、想像力。相手のことをしっかり想像する力を養うことがPEACEにつながるんじゃないかなと。
■PIECE
価値が込められているもの。PIECEって部品みたいな意味合いにも感じられますが、それがないと完成しないとも言える。お洋服もそうで、その一つ一つは部品でしかないようにも思うんですが、それぞれにちゃんと価値が宿っている。着ることによって完成していく。PIECEひとつひとつは小さく感じても、それがちゃんと自分と一緒に存在していることが大事なんだと思います。
――ありがとうございました!これからの内田さんとhaco!の展開を楽しみにしていてください!